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吹きガラス 匠工房

沖縄を南北に走る高速道路。そのちょうど真ん中にある石川ICで降り、海に向って車を走らせると、左手に匠工房のサインが見える。
半分オープンエアーの工房は、すみずみまで掃除がゆき届き、道具類は使いやすいように整理整頓されている。
そして、窯と呼ばれる溶解炉のまわりでは、8人の職人さんがてきぱきと働いている。共同作業が多いガラス作りにおいて、彼らの連携プレーは無駄な動きがひとつもなく、とてもなめらか。思わず見とれてしまう。

太陽、火星、水星…と、太陽系の九つの惑星の名を持つグラスシリーズPLANETは、この清々しい環境の中で生まれた。
その中のひとつ、いちばん人気の「EARTH(地球)」を手に取ってみる。ころん、と手のひらになじむ形。「水の惑星」と呼ばれる地球だけに、まんまんと湛えたコバルトブルーが眩しい。これで冷たい水を飲んだら、体の中からシャッキリ、元気になりそうだ。

「実は、PLANETシリーズの中で、いちばん初めに作ったのがEARTHなんですよ。うちの作品は沖縄の自然をモチーフにしているでしょう?海から空、宇宙とイメージの旅に出かけて、たどり着いたのが地球だったんです」

と、いたずらっぽく笑う松田さん。作品のモチーフに自然が多いのは、松田さんにとって一番身近なものだから、と語る。

「高校卒業まで住んでいた家は、海のそばにあったんですよ。なので、波の音が子守唄であり、目覚まし時計。そのことが記憶や体に刻まれていて、インスピレーションの源になっているんでしょうね」

そして、EARTH誕生から4、5年の後、沖縄の工芸品によるブランド開発プロジェクトに参加することになり、PLANETシリーズの制作を開始した。

「せっかく作るなら、現時点で匠工房が持っている技法を全部注ぎ込もうと思ってね。PLANETをきっかけに、琉球ガラスを好きになる人が増えたら嬉しいですね」

琉球ガラスは戦後の沖縄で生まれ、復興を支えた産業の一つ。観光業の盛り上がりとともに、現在はお土産品としての製造が主流で、値段も比較的安い。けれど、それとは別に、沖縄らしい完成を取り入れたガラスを、暮らしや生きることを大切にするひとに向けて作りたい。そして少しずつ、琉球ガラスの価値を高めていきたい。PLANETシリーズには、そんな松田さんと工房の皆さんの思いがこめられている。

特別にEARTHの製造工程を、松田さんのはからいで見学させてもらった。
連携プレーの邪魔にならないよう、スタッフの皆さんの動きを読んで、工房内をぐるぐると移動し、立ち位置を確保する。1200℃から1400℃で燃える窯の火は離れたところにいても、熱い。ここから、吹き竿で真っ赤に溶けたタネ(ガラスの原料)巻き取る。そして、ふーっと思い切り息を吹き込むと、みるみるうちに、きれいな球体ができる。この「吹きガラス」と呼ばれる技法はガラス製造の基本であり、発祥は紀元前1世紀頃のローマ。なんと2000年前から今に至るまで、製法はほとんど変わらないというから驚きだ。


加えて、吹きガラスには「宙吹き」と「型吹き」の二種類の技法がある。前者は吹き竿を上方に掲げ、空中で息を吹き込む。名前のとおり、後者は成形時に型を用いる。PLANETシリーズではガラスの薄さと透明度、そして生産性を追求した結果、一番大きなSUN(太陽)は宙吹き、他は型を併用する半宙吹きの技法を採用した。

「ガラス原料の量や形、デザインの作り方には一定の基準を設けているけれど、火や空気といった自然が相手だから、コントロールできない部分もあるんですよ。よく見ると、模様や色、形が一つひとつ微妙に違うのは、そのせいです」

でも、そこが面白い、と松田さんは語る。窯からタネを出すタイミングやガラスに吹き込む息の塩梅など、その都度、技術と経験が試される。ガラス作りは、自然との真剣勝負なのだ。

炎と空気を操りながら、9つの星を生み出す職人たち。
自らの腕と感性を磨くことを怠らず、日々、ガラスと向き合う彼らには琉球ガラスの理想形が見えているのかもしれない。

「いずれは、琉球ガラスを世界のガラスの最高峰であるベネチアングラスの域まで高めたい」
そう語る松田さんの瞳は、星のようにキラキラと輝いていた。

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