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手しごと島めぐり

神様に捧げる
伝統発酵食

来間島みき

宮古島の南西に位置する来間島は、宮古島とは長さ約1.6kmの来間大橋で繋がっている。周囲は約10km、人口およそ170人の小さな島である来間島には、昔から神様に捧げられている「みき」という伝統発酵食がある。

「みき」は「神酒」に由来した飲み物で、原材料はお米と麦麹だけ。作ってから3日間常温で発酵させたものが来間島みきの製法となる。みきは昔から豊年祭や神事の際に神様に捧げられてきたが、島の人々にとってはとっても馴染み深い飲み物で、家庭でも日常的に作られていた。

島に短い秋が訪れた11月某日、現在でも日常的に祈りのためにみきを作り、広める活動を続けている砂川葉子さんという女性をたずね、みきづくりや実際の拝みの様子をご案内していただいた。

麹の力を借りて、三日三晩

来間島の「みき」は米と麦麹で作るのが伝統的な製法だが、昔は米ではなく粟で作られていたそう。なぜ今は米で作られるようになったかは定かではないが、葉子さん曰く、時代の変化とともに米が容易に手に入るようになったこと、米で作った方が美味しかったからではないかと推測している。

葉子さんの手により大切に注がれる出来立ての「みき」。とろみがあるが一体どんな味なのか。今でも神様に捧げられていると聞き、少し緊張しながら口に含んでみる。舌触りはなめらかで、ほんのり甘く、酸っぱさも感じられる。そして発酵させているからか、少しシュワっとした食感もある。分かりやすく味を例えるなら、子供の頃によく飲んだ乳酸飲料をとってもまろやかにして、とろみをつけたような感じだ。

 

乳白色をした出来立てのみき。3日間常温で発酵させて、酸っぱい香りと共に表面にプクプクと泡が出てきたら、みきの出来上がり。

「暮らしの一部」だった出会い

「来間島みき」代表の砂川葉子さん。出身は岐阜県

東京で輸入雑貨を取り扱う会社で働いていた葉子さんは、休暇中にたまたま訪れた来間島でのちの旦那さんとなる徳司郎さんと出会い2001年に結婚。来間嫁となり、島の神事に自然と携わるようになり、そこで「みき」の存在を知る。

なぜ「みき」に興味を持たのかを尋ねてみたが、たまたま、だったという。体調をくずしたらオバァが「みき」を作って飲ませてくれて、豊年祭にはみんなで大きな鍋を囲んで米粉をかき混ぜて「みき」を作り、島の暮らしに「みき」は欠かせない存在だった。「みき」を仕事にしようとはまるで考えていなかった、たまたまそうなってしまっただけ、という。

ある日、来間島に訪ねてきた旅行者に「みき」を振る舞う機会があり、そこで「みきが飲める店があったらいいのに」という言葉に触発され、家元や島のおばあに相談したところ、やってみなさいと背中を押され、みきが飲める店を2018年に宮古島市公設市場内にオープンした、といういきさつなのだそうだ。

店ではみきと島のフルーツを合わせたオリジナルのスムージーを提供し、ここ数年はオンラインによる来間島みきのワークショップも多数開催。そして2022年、来間島みきリトリートと来間島みき認定継承者コースを始め、更に来間島みきを広める活動に力を入れている。

また、かつてはみきの材料であったが今では栽培されなくなった「粟」についても、昔は口噛み酒を作っていたり、首里王府へ納める年貢として栽培されていたこともあり、島人にとって大切な作物であったと考えている。粟畑が広がっていた島の原風景を取り戻したいという思いから、粟や黍などの雑穀栽培にも取り組んでいるそうだ。

聖地ウタキでご挨拶・お供え

来間島には20カ所以上の御嶽(うたき)と呼ばれている、神様が祀られている拝所がある。来間島ではこの御嶽へ見舞う際、神様に捧げる「ウガミセット」を準備する。内容は宮古黒線香、塩、煮干し、生米、花米(洗い米)、そしてみき。それらを置くための皿や盃は紙を切って折って作る。線香の本数や花米の洗い方にも決まりがあり、覚えるのは容易ではない。だが、さすがの葉子さんは手慣れた手つきで淡々と準備を進めた。

来間島の祭祀の中心となっているアガイヌウタキと呼ばれる東の御嶽。今でも年に数回、島のツカサウマとユウジャツと呼ばれる御嶽での祭祀を取り仕切る女性たちを中心に、3日2晩泊まり込みで御願(うがん)を行い、島の人々の健康や子孫繁栄、豊作を祈願する。御嶽は島の人々にとって、神聖な場所である。

御嶽では準備したウガミセットを祠の前に供え、紙で作った盃にみきを注ぐ。黒線香に火をつけ、これで神様を拝む全ての準備が整う。

葉子さんから習った通り、静かに手を合わせ、心の中で来間島の神様への挨拶をする。その間、聞こえるのは風の音と鳥の鳴き声だけ。自然の音だけに包まれたこの空間に、何となく神様がいるような雰囲気が感じられた。

命をささえてきた泉

来間島の北の崖を下った先の、来間港からさらに奥に進んだ場所にある「来間ガー」。島唯一の井戸で、宮古島から海底送水が開始される昭和50年まで、島の全ての生活用水はここで賄われていた。降った雨水が大地に浸透し、湧き水となって人々の生活を支えてきた、島にとってはとても大切な場所だ。

来間ガーは崖側から海に向かって順に、1番ガーは飲用水として、2番ガーは洗濯に、3番ガーは家畜の洗浄に使われていた。それぞれが連なっており、少しの水も無駄が無いように作られている。そして3番ガーからは水が海へと流れ込んでいく仕組みになっている。

来間ガーは崖側から海に向かって順に、1番ガーは飲用水として、2番ガーは洗濯に、3番ガーは家畜の洗浄に使われていた。それぞれが連なっており、少しの水も無駄が無いように作られている。そして3番ガーからは水が海へと流れ込んでいく仕組みになっている。

1番ガーより奥、崖と地面の少しの隙間から水が湧き出る場所。昔はここから水を汲み、みきを作る際にも使われていた。

ゆいまーる沖縄でワークショップ開催

みきは奄美大島までを含む南西諸島で、昔より親しまれてきた飲み物だが、島によって原材料や作り方が異なる。来間島には来間島の製法があり、今回はその作り方をワークショップで伝える。そしてみきにまつわる神事や島の行事、島での暮らしについても語られる予定。

米粉を水で撹拌したものを鍋に入れ火にかける、みき作りの最初の工程

詳しい来間島みきの作り方は沖縄県南風原町のゆいまーる沖縄本店で開催されるワークショップにてご紹介します。みなさまのご参加をお待ちしております。
ワークショップの詳細はこちら

文・写真/堀川くみ


【プロフィール】

大阪府出身、宮古ブルーの海の魅力に惹かれ2003年宮古島に移住。観光情報誌を発行する広告代理店で十数年働いたのち独立。その経験を生かし、現在はフリーランスのフォトグラファー、ライター、グラフィックデザイナー、バスガイドとして活動中。

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