陶眞窯
食事をするとき手に持ちやすく、口あたりのいい飯碗。
ごはんを盛り付けるとき、使い終わって洗うとき、フチの具合や底の高台が手におさまりがよく、安心感を与えてくれます。
吉祥文様の唐草や鮮やかな赤絵の模様など、日々の生活に豊かさをくれるこの器を、伝統を継承しながら作り続けている工房があります。
それが陶眞窯。
沖縄中部、読谷村。まっすぐに伸びる58号線の途中、西海岸向けにすじ道を入るとすぐに工房があります。
沖縄でも屈指の、大きなやちむんの工房、陶眞窯。窯主である相馬正和さんは壺屋焼の窯元で修業後、1975年恩納村に登り窯を築き独立。1978年から読谷村座喜味に腰を据え、現在では10余名もの職人がいます。
日用雑器から、シーサー、酒造所向けの大きな人身大の酒壺にいたるまで、伝統の技術を継承し活かしながらモノづくりを続けている工房です。
そのモノづくりを担っているのは、相馬さんをはじめ30年以上の経験を持つ職人や、熟練した絵付け師や轆轤師たち。
分業でそれぞれが担っている役割は、洗練されていて、ひとつひとつの作業が自然に呼吸をするかのようにすすみます。
広い工房を歩いていると、土でできた鉄砲窯や、家のように大きなガス窯、轆轤師の席がズラリと並ぶ作業場など、いろいろな役割を果たす場所があります。
なかでもとくに目についたのが、釉薬の積み上げられた棚と釉薬を作る器具。
コバルトや呉須、飴など焼成後はさまざまな発色をする釉薬ですが、自然の素材から作られているため、焼成前では多くの種類が灰色。
何を発色するのか素人目ではわかりませんが、職人はもちろん、わかっています。
沖縄の代表的な釉薬“シルグスイ”をはじめ、多くの釉薬を手作りしているため、理科の実験室で使いそうな釉薬作りの器具なども、職人たちが使いこなしているのです。
また、工房の規模が大きいためその生産量も一見してすぐわかります。
窯入りを待っている器が端正にずらりと並んでいる様は、まだ焼成前であっても美しいものです。
特に多く生産されるのは、相馬さんの原点ともいえる飯マカイ(飯碗)。
「飯を食うためのアイテムは、生活でもっとも大事だからね」
料理人だった経験を持つ相馬さん。
「最近は多用性のある白い器なんかが求められがちだけど、この料理にはこの器って選ぶ過程が楽しいし、豊かだと思うんだよね」
その言葉通り、陶眞窯の窯からは多彩な色と柄の器が日々生まれています。
器を選ぶことで生活を豊かにしてほしいという思いが、モノづくりに込められています。
唐草や刷毛目(はけめ)の赤絵など、沖縄の伝統の模様はもちろん、そこから発展した工房独自のデザインとして定番化したものの多くが、20年以上描き続けられているデザインです。
陶眞窯では、窯に火を入れる時「“生まらしみそーれ”(生まれてきて下さい)」と祈りを捧げます。
窯出しは、職人たちが分業でつないだ器が生まれてくる、大切な瞬間なのです。