ノモ陶器製作所
読谷村のとある住宅街。車一台通るのがやっとの細い路地が碁盤目状にめぐらされ、平日の昼間はものすごく静かな一角ですが、よーく耳を澄ますと、かすかに聞こえてくる音があります。
「キュッ・・・シュッシュッ・・・」。ろくろが回る音と、やちむんの成形の仕上げに窯入れ前の粘土を削る、ごくごく小さな音。同じ間隔で、何度も何度も続きます。そして時折挿入される、作り主の鼻歌。ノモ陶器製作所の野本周(のもと・しゅう)さんはそうやって、自宅とつながった小さな工房で一人で作陶を続けています。
同じ読谷村にある「陶芸 城」で修行した後に独立した野本さんですが、実は初めから読谷に窯を開くと決めていたわけではなかったそう。
「同じく陶芸をしている妻と一緒に独立を決めて、沖縄県外でも何ヶ所か拠点を探して回ったのですが、やはり読谷に落ち着きました。読谷は土地・地域に陶芸がとてもよく溶け込んでいると思いました。例えば自宅兼工房として家を借りる時、陶芸をすると言っても大家さんはすんなり受け止めてくれる。県外だと『煙とか火が心配・・』となっちゃうんですよね」
そうして巡りあった読谷村の自宅兼工房で、釉薬の調合から成形、仕上げ、焼き上がりまで、全て の工程を一人でこなしています。ここから生まれる器はオーソドックスな形のものが中心で、日常使 いにちょうどよい、ほどよくシンプルで飽きのこないデザイン。どこか自由でのびやかな表情をもつ 器たちは、毎日の食卓に彩りを加えてくれます。
「沖縄の伝統的なやちむんのデザインって結構大胆なのが多いですけど、暑くて日差しが強い風土が 影響しているのはあると思いますね。自分の性格的には合っていると思います」
野本さんご本人も一番お気に入りという「緑釉(りょくゆう)」を用いた器は、ゆいまーる沖縄でも常に高い人気。小皿から七寸皿まで同じデザインで作られ、サイズ違いできょうだいみたいに揃えたくなるような愛らしさがあります。この鮮やかな釉薬の色、意外なことに、金属の真 鍮(しんちゅう)から作られているそうです。
金属の加工場から廃材として出る真鍮の金屑を、もみ殻の灰と混ぜて一度窯に入れて焼く。できあがった物体は何というか、地球のミニチュアのような独特の球体に。それを水に溶かしてできあがりという、なんだか化学の世界です。水に完全には溶けないので、釉薬が液状のまま流れたりして、焼き上がった器は一つとして同じものはない、独特の質感に仕上がります。
「釉薬の作り方は修行時代に学んだものですが、レシピのようにキッチリしていなくて、『このくらいかな?』って、体で覚えるっていうようなもの。そういうところも沖縄の風土から生まれているんだろうなって思います。また、マニュアル的に身につけるよりも体で覚えたものの方が、応用も利かせやすいので、それも理にかなっているなあ、って」
現在、奥様とお子さん2人の4人暮らし。子どもたちが学校から帰ってくると、家で遊んでいる声を 聞きながら仕事に励む毎日です。
「以前は完璧主義的というか、『ここまでやる』と決めたらキッチリやらないと気が済まなかった。 子どもができて少し肩の力は抜けた感じがしています。子どもとの時間を大事にしないと結局自分の 仕事に帰ってくるし、手をかけてあげられるのも、子どもが小さい間の何年かだけですからね」
自宅にはあえてテレビは置いていないので、テレビを見せる代わりに絵本を読んで聞かせたり、一緒にダンボールを使った工作や、時には一緒に粘土をこねてやちむんを作ることもあるそう。
「河合寛次郎(陶芸家)の言葉に『暮らしが仕事、仕事が暮らし』ってありますけど、本当、その通りだなあって。一日一日に達成感があって、毎日が幸せです。いい仕事ですよね」
と、笑顔を見せてくれた野本さんでした。
仕事と暮らしが一緒に詰まった小さな自宅兼工房では、今日も小さな鼻歌と子どもの笑い声を聞きながら、愛らしいやちむんが生まれています。